• 7月 6, 2025

疾患解説:リウマチ性多発筋痛症

 リウマチ性多発筋痛症は平均発症年齢は50歳以上、70-75歳に多く、成人では関節リウマチの次に多い全身性リウマチ性疾患です。「リウマチ」という言葉が病名に入っていますが、「関節リウマチ」とは別の疾患です。左右対称の首~肩や臀部、膝裏の痛みとして突然発症し、最初になかなか原因がわからずに苦労する方も多い病気です。診断さえつけば、ステロイドが非常によく効きます。


どんな症状が起きますか?

 比較的突然に発症します。両肩や足のつけ根が痛くてこわばり、「バンザイ」の動作や、寝たり起きたりの動作がとてもつらくなります。

 発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、抑うつを伴うことがあります。

 高齢の場合、診断がつかないまま経過して寝たきりの状態で経過してしまうことがあります 1)。

 体の痛みは朝の起床時に強く、体を動かすと多少軽減します。

 平均発症年齢は70-75歳と高齢の方に多いです。50歳以上でやや女性に多く(2倍)、成人では関節リウマチの次に多い全身性リウマチ性疾患です。

 左右対称に、肩や臀部にある滑液包(筋肉同士や筋肉と骨の摩擦を減らす袋)に炎症が起きることが症状の原因です。関節や筋肉の破壊は通常起きません。

 一部の方に頚部~側頭部に分布する動脈に炎症を起こす巨細胞性動脈炎(旧病名;側頭動脈炎)という病気が合併することが知られており、その場合はこめかみの頭痛、食事で顎が疲れやすい、視力・視野障害、発熱、倦怠感などの症状が現れます。この場合はより慎重に検査、治療を進め、リウマチ性多発筋痛症よりも強力な治療が必要になります。

 手足の末端の関節の内部に炎症を起こす関節リウマチと異なり、炎症を起こす部位はほとんど肩、首と臀部に限られ、末端の関節が腫れたり変形を起こすことはありません。ただし関節リウマチと一緒にこの病気がでることもあります。

なぜ病気が起きたのですか?体の中でどんなことが起きているのですか?

 原因はよくわかっていません。体質や病原体の関わりや、加齢により体内の炎症を調整している免疫調節力が落ちるためという説もあります。食事など生活習慣は関係ありません。

必要な検査は何ですか?

①  血液検査

 これが出たら診断確定!というような特徴的な検査項目はありません。関節リウマチでみられるリウマチ反応(リウマチ因子や抗CCP抗体)は通常陰性です。

 ですから、診断時の血液検査は他の疾患との区別をして診断を絞り込んだり、治療前の感染症チェック、内臓障害の有無など、これから投薬を受ける準備のために行います。

 また治療がはじった後は、炎症が消えているかどうかの確認(CRP、赤沈、MMP-3など)を観察します。病気の活動がある状態では炎症を反映してこれらの数値が上昇しており、治療後は低下し正常値になっていることが望ましいです。

 また、ステロイド使用中は血糖の上昇や脂肪肝の出現に注意を払う必要があります。

②   画像検査所見

 肩や大転子部に超音波(エコー)を当てると、腱の周りに炎症が起きているのがわかります。病気の活動がある状態では、エコー検査で滑液包に水がたまったり、炎症を反映して血流が増加(赤くみえる)しているのが観察できます。

通常の診療では行いません(保険診療で行えない)が、PETを行うと全身のどこに炎症があるのかが良くわかります 4)。

どのようにして診断が決まりますか?

 一つの検査で診断確定!というような特徴的な検査はありません。

 炎症とそれに伴う症状、症状の分布、ほかの疾患を区別することが重要です。

 診断の参考に用いられているのは、ヨーロッパ/アメリカのリウマチ学会が共同で提唱した基準です。以下の項目を参考に、最終的には医師が総合的に判断し診断をつけます。

  • 年齢が50歳以上であること
  • 両肩の痛みがあること
  • 炎症反応が高いこと(CRPまたは赤沈)
  • 朝のこわばりが45分以上続くこと
  • 臀部の痛み、動作制限
  • リウマチ因子や抗CCP抗体陰性
  • 肩と腰以外には症状がないこと
  • エコーで滑液包炎があること

難病ですか?この病気の難しいところは何ですか?

 国が定めている指定難病には含まれていません。

 ステロイドがとてもよく効く疾患ですが、ステロイドの減量に伴いしばしば再発がみられる病気です。

 またステロイドの減量がなかなかうまくいかず、長期にステロイドを使用しなければならないことはあります。

最初に受けるべき治療は?

 診断がついた後は、安全に治療を進めていくための準備として感染症や骨粗鬆症のチェックを並行して行います。

 悪性腫瘍の合併が通常よりも多いとする説がありますので、エコーまたはCT、内視鏡検査や女性の場合は婦人科系も含めた癌健診も受けることをお勧めします。時々骨粗しょう症の検査も受けておきましょう。

 さて、治療はステロイドによる薬物療法が中心となります。ステロイドの内服を始めると、半日くらいで速やかに効果を示し始めます。この切れ味の良い効果がこの疾患の特徴でもあり、診断の裏付けにもなります。

 専門家の合意に基づくステロイドの推奨開始量は、プレドニゾロンで1日あたり 12.5-25mgです。体の大きさや炎症の強さでステロイドの開始量を決めています。

 初期量は少ない方がいいということではなく、初期にしっかり薬を使って病気の活動を鎮めることが重要で、その方が再発を減らし安全にステロイドを減らすことにつながります。

「内服ステロイド薬の使用法と注意点」を(外部サイト)も読んでいただくようにお願いします。

療養上、気をつけるべきことはありますか?(食事、栄養、運動)

 治療前では、動かないとこわばりが悪化しますが無理して動くと余計につらいだけのように思います。診断後にステロイド治療を開始すれば、その後はすみやかに症状が改善するはずです。改善してから体力を維持したり元に戻すための運動を行っていくことをお勧めします。炎症が消えた後は、生活や運動の強度に制限をかける必要はありません。

 食事の内容で病気が良くなったり悪くなったりすることはないですが、ステロイドを使うと食欲が増して体重が増えやすくなるため、もともと血糖が高めの人は糖尿病が悪化することがあるので糖分摂取には注意してください。

経過をみていくための検査とステロイドの減量は?

 血液検査で、CRPや血沈(ESR)といった炎症反応が高値を示します。

 病気が安定していればこれらの数値が正常化しているはずですから、毎回血液検査で確認しながらステロイドの減量を進めていきます。

 ステロイド(プレドニゾロン)は、治療開始から4-8週までにできるだけ1日10mgまで減らして、そこから毎月1mgづつ減量していくやり方が推奨されています(ヨーロッパ/アメリカリウマチ学会治療推奨)。

 うまくいけば約1年で治療薬をすべて終了して通院を卒業できます。ただし、ステロイド減量中の再発や、ステロイド中止後の再発もかなり多い疾患ではあります。

 血液検査では炎症の数値が正常化しているのに肩の痛みが残っている場合を時々みかけます。実は肩関節周囲炎、いわゆる五十肩が合併している場合もあります。肩に超音波を当てると炎症が残存しているか確認できます。レントゲンで石灰沈着をみたり、MRIで腱が切れていないかを確認するとよいでしょう。五十肩であればリハビリを行い関節をほぐしていくのが良いでしょう。

治りますか?再発したら?ステロイドは止められる?

 治療開始後はステロイドを徐々に減量し、約1年で治療完了を目指します。

 しかしこの疾患は再発が多く、ステロイドの減量中に30-50%の方が病気を再発します。その場合はステロイドをいったん元に戻して治療をやり直します。

 また中止できた場合でもその後に再発することが多く、2年間で50%の方が再発します。

 再発歴がある方は、再発しない最低量のステロイドで治療継続します。

 ステロイドの減量が速すぎると再発のしやすいという報告があります。

 できるだけ再発しないために、CRPがしっかりと陰性化していること、あわてずに段階的にステロイドを減らしていくことが重要です。

 ステロイド減量中に再発した、ステロイドがなかなか減らせない、ステロイド関連として起きやすい問題がすでにあったりそのリスクが高い患者さんの場合、メトトレキサートやIL-6受容体阻害薬(アクテムラ®、ケブザラ®)を併用してステロイドを極力減量・中止することが考慮されます。

・補助的に関節リウマチ治療薬であるメトトレキサートを用いることで、ステロイドの積算量を減らせたり再発を減らせることが報告されています。

・IL-6受容体阻害薬アクテムラでステロイド減量や中止が可能になったという報告があります 5)。

※リウマチ性多発筋痛症ではIL-6受容体阻害薬は保険で承認されていません。

近縁病態の巨細胞性動脈炎ではトシリズマブ(アクテムラ®)やウパダシチニブ(リンヴォック®)が保険適応となっています 3)。

 その他の生物学的製剤は、TNF阻害薬はエビデンスが乏しく推奨されていません。

 JAK阻害薬はその作用機序から治療薬として有望ですが、エビデンス(医学的に検証されたデータ)は乏しいです。


安全に治療を続けるための感染症対策

 ステロイドを使用すると免疫力が低下します。そのため、冬が近づいたらインフルエンザワクチンを、また65歳以上の方は肺炎球ワクチンをお勧めします。ワクチンの項も読んでみてください。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 病気の理解を通じて、安全・安心の治療を進めていきましょう。


参考文献

1) Arthritis Rheum. 1998; 41: 122, JAMA 2016; 315: 2442-58

2) Arthritis Rheum 62 : 3768-3775, 2010.

3) JAMA 2016;315:2442-58.

4) Kaneko et al. Mod Rheumatol 2020, 30(2):358–364

5) Arthritis Rheum 57 : 810―815, 2007

6) J Rheumatol 1996;23:624–8

7) Ann Intern Med 2004;141:493–500.

8) Clin Exp Rheumatol. 2008; 26: 395-400

9) Ann Rheum Dis 1996;55:218–23

10) Dasupta B. Arthritis Rheum. 2012 64(4) 943-54 (ACR PMR診断基準)

11) Dasupta B. Arthritis Rheum. 2012 71(4) 484-92

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