- 7月 6, 2025
- 10月 4, 2025
更年期の関節症状
更年期や産後の授乳期の女性にばね指や腱鞘炎が多いことが知られています。手の使い過ぎというわけではなく、多発する場合が多いです。これといった治療法が確立しておらず、治療に難渋することがしばしばあります。

更年期には体内の女性ホルモン(エストロゲン)の量が低下し、のぼせ・ほてり・発汗・手指の関節痛、筋肉痛などの症状が現れます1)が、エストロゲンは関節滑膜にも作用します。エストロゲンには腱、腱鞘の保護作用があり、エストロゲン低下により腱や関節に炎症が起こりやすくなったり、腱などの組織が線維化や変性を起こしやすくなるとされています。使い過ぎではないのに両手に腱鞘炎が起きたり、朝起きたときや車に乗って同じ姿勢でいた後に動き始めの動作が固まっていて関節や筋肉が痛くなったりします。
手指の変形性関節症(へバーデン結節やブシャール結節)にも女性ホルモンが関わると考えられています。
更年期をホルモンの状態で判断する場合、
- エストラジオール(E2) 20 pg/mL以下
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)40 mIU/mL以上
の2つが同時にみられた状態を更年期と判断します。
女性ホルモンの低下が原因ですから、症状の特に強い方には女性ホルモンの補充あるいは代替療法が有効です。代替療法の一つにエクオールを摂取するという方法があります。
大豆に多く含まれるイソフラボンは、腸内でエクオールという物質に変化し、エストロゲンと類似の作用を発揮することにより、ほてり、首や肩のこりなどの更年期の症状に加えて、関節の痛み・こわばりのような症状にも有効であるという報告があります。
それでは、大豆食品を多く摂取することがそのまますなわちエクオールを摂取したことになるのでしょうか。
実は、イソフラボンをエクオールに変換するのは腸内細菌が行っています。その働きを持つ腸内細菌を持っている日本人は50%程度と言われています。この腸内細菌を持っていなければ、エクオールそのものをサプリとして摂取する必要があります。この腸内細菌を持っているかどうかは、ソイチェック®(ヘルスケアシステムズ社)という尿検査で確認できます。

エクオールはエクエル®(大塚製薬 エクオール10mg/日)、大豆イソフラボンエクオール®(DHC エクオール10mg/日)、命の母®(小林製薬 エクオール2mg/日)などに含まれています。

摂取量の目安ですが、手指の不調を自覚する更年期の方がエクオール10mg/日を3か月摂取(+ステロイド局所注射)したところ、6割の患者で関節症状が改善したと報告されています。この様な効果は更年期関節症状の初期の段階では有効で、手指の変形が進んだ方では効果が乏しいという結果でした2)。
この研究に即したエクオールの量を摂りたい場合、大塚製薬のエクエル®またはDHCの大豆イソフラボンエクオール®であれば研究で有効性が示されたのと同じ量を摂れることになります。半減期は8時間のため、1日2回に分けて摂ると良いでしょう3)。
ほかに、更年期症状、骨粗鬆症4)、肌のしわ5)、体脂肪、高脂血症6)、血圧、血管内皮機能6)、乳癌、前立腺肥大・前立腺癌に対して好ましい影響が報告されています。
女性ホルモン欠乏症状が強い場合、あくまでサプリであるエクオールの力では足りないかもしれません。その場合はホルモン補充療法(HRT)を考慮します。ただし、閉経期の女性が女性ホルモンの投与を受けると閉経によりいったん収まっていた子宮筋腫や子宮内膜症が再発したり、長期の投与で乳癌や子宮体癌のリスク増加が懸念されているため、婦人科系の検診をセットで受けることが望ましく、婦人科で相談することをお勧めします。
エクオールはホルモン補充療法と比べて効果は弱いですが、乳腺や子宮にあるエストロゲン受容体(ERα)よりも全身にあるエストロゲン受容体(ERβ)に結合が強いため、ホルモン補充療法に比べると婦人科臓器へ影響する懸念は少ないです。
当院では、大塚製薬のエクエル®を院内で販売しています。医療機関で買えるのは薬局で購入できるタイプよりも小粒で飲みやすくなっています。また、ほんの少しですが定価よりお安く販売しています。ご希望の方は受付にお声がけください。
参考文献
- 野崎雅裕:更年期と加齢のヘルスケア 12(1)1280132, 2013
- ウィメンズヘルスケアにおけるサプリメント:大豆イソフラボン代謝産物エクオールの役割;日本女性医学学会雑誌 第20巻第2号
- 内山成人ほか 第68回日本栄養・食糧学会大会発表資料2014年
- エクオールの骨に対する影響:Tousen Y et al. MEnopause. 18(5):563-574, 2011
- エクオールの肌に対する影響:Oyama et al. MEnopause. 19(2):202-210, 2012
- エクオールの糖および脂質代謝、血管機能に対する影響:Usui et al. Clin Endocrinol. 78(3):365-372, 2013